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僕とキルミーの出会い

「どしたのわさわさ?」彼女が私に尋ねた。それは形而上的な意味と、そしてほんのわずかな暴力性を孕んだ言葉だった。やれやれ、私はその時ナーミンだった。疑いようもないほど、完璧なナーミンだった。

 僕がキルミーベイベーと出会ったのは、ある冬の寒い日だった。その日、僕はサークルの後輩と五時間ほど麻雀を打ったあとラーメンを食べにいくという、いつものことながらモラトリアムの極みみたいなだらけきったルーティンをこなしていた。
 そのときの面子に皆からKと呼ばれている男がいた。彼は顔はなかなか悪くないのに口を開けば現代アートとヒップホップという、いわゆるオタクと呼ばれている僕らにさえちょっと近寄りがたいジャンルの話を延々とするので少し浮いているような男だった。
 僕らのサークルは現代文学研究会といって、大仰な名前はついているけれど実際には記号と象徴の区別さえつかないようなアニメばっかり見ているオタクの集まりで、だからアニメは全く見ないという彼に僕は(というより僕らは、だと思う)実は一目置いていて、現代アートの芸術性と舞城王太郎の関係性を熱心に語る姿には一種の憧憬を抱いてさえいた。

 だから、そんな彼が唐突に――彼の話はいつでも唐突ではあるのだが――アニメの、しかも普通の日常アニメの魅力を語り出したとき、僕は身勝手ながら少々落胆した。その落胆というのは今考えれば日常アニメを見下したもので、しかしよく考えるとどうして見下していたのかわからなくて、とにかく理由のない落胆だった。
 Kは
「『キルミーベイベー』ってアニメがマジでヤバいんですよ」
 と言った。
「どうヤバいの?」
 と僕は返す。
「主人公は普通の女子高生で、その親友が殺し屋って設定なんですけど。すっごい退屈なんスよ」
 ――退屈なものを人に勧めるなよ、と僕は思った。
「なんていうか、徹底して退屈なんですよね」
「冒頭で主人公が『わたし折部やすな、たぶん高校生!』って自己紹介するんですけど。『たぶん女子高生』なんですよ。すごくないですか?」
「友達のソーニャちゃんも『たぶん殺し屋』でしかなくって、全然ドラマチックなことなんて起きないんですよ。一応刺客とか出たりするんですけど」

 なんだったか忘れてしまったけれど、この辺りで他の面子に別の話題を振られて、この話はお流れになった。
 僕が家に帰ったあと、「キルミーベイベー」で検索をかけたのは、こんな支離滅裂な”オススメ”に心動かされたからなんかじゃ決してなくって、単に、モーニング娘。の新曲を聞きながらヘドバンしているようなこの男がハマる日常アニメとはどんなものか、という興味でしかなかった。
 けれど今考えると、このオススメは非常に的を射ていた、と思う。
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